花組『A Fairy Tale-青い薔薇の精-』本公演の感想です。
新人公演に刺激を受け、本公演も変化することがありますよね。
明日海花組は、特にそれが顕著だと思います。
…なので、その感想を。
『A Fairy Tale-青い薔薇の精-』 は本公演のお役の人と、新人公演でその役を演じる人が近い関係性にある事が多いですね。
青い薔薇の精エリュ(明日海りお)と白薔薇の精(聖乃あすか)
植物研究者ハーヴィー(柚香光)と助手(帆純まひろ)
シャーロット(華優希)と7~9歳のシャーロット(都姫ここ)
最も変化がみられた本役さんは薔薇の精霊エリュ(明日海りお)でした。
これ、いつもの事だけど。
誰よりも刺激を受け、それを己の演技に反映する明日海さん。
特にラスト間際、シャーロットと再会した際。
「シャーロット」と呼びかける声のニュアンスが、観る機会の分だけ、異なるアプローチになっています。
最後の最後まで、明日海りおは明日海りおでした。
次点で、シャーロット(華優希)
ことに晩年のシャーロットがもう……もう。
シャーロットがエリュの存在に気づいた瞬間から。
ハッと表情が止まった瞬間から。
こちらの感情まで、シャーロットと連動するようになりました。
華ちゃんの演技に身を委ねてみて下さい。
シャーロットと同じ感情が味わえると思います。
同時に、聖母のような空気に包まれ、ホッとする…。
愛されていると感じ、満たされる…。
同時に、そんなエリュの気持ちも体感できる事でしょう。
シャーロットの膝に顔を寄せ、嬉しそうに涙を流すエリュは、とてつもなく愛らしく、美しく、切ない…。
極上の表情です。
この半世紀ぶりの邂逅の場で、明日海さんは華ちゃんが投げかけてくる気持ちを静かに受けとめています。
華ちゃんに反応しています。
それも、ごくごく自然に。
そこには、エリュとシャーロットとして心が通い合っている二人がいます。
同時に、互いの演技に全幅の信頼をおきあう舞台俳優が存在しています。
思えば、明日海さんは歴代の相手役について、このように語っていました。(ニュアンス)
★蘭乃はな退団時
「らんちゃんは歌の稽古をとても熱心に頑張っていました」
大作『エリザベート』でタイトルロールを張るにあたり、歌の稽古を重ねていた蘭乃さん。
明日海さんは東京千秋楽で、本人に代わってそこに触れました。
★花乃まりあ退団時
「彼女の努力は認めてやってほしい」
花乃ちゃんは組替直後に任されたエトワールを皮切りに、苦戦が続きました。
96期生という事も影響していたと思います。
東京千秋楽で花乃さん本人に代わり、重ねてきた努力を代弁した明日海さん。
いつもは退団者一人一人にコメントする明日海さんが、その時ばかりは花乃さんの事のみ。
花乃ちゃんをひたむきなお気持ちに驚きつつ、胸が熱くなりました。
(なお、宝塚千秋楽ではちゃんと退団者全員にコメントされました)
★仙名彩世トップ娘役就任時
「努力は報われてほしい」
何らかのメディアで仙名さんの日頃の熱心で誠実な姿勢にふれ、「努力が報われて良かった」というような事を話してらしたな…と。
花乃ちゃんも、花組に組替当初、ゆきちゃん(仙名)が何くれとなくお世話してくれた…と感謝していましたね。
ステージトークで城妃美伶ちゃんがゆきちゃんの面倒見の良さを語り、聖乃あすか君が「そこまでして下さるなんて…」と驚いていた事は記憶に鮮やかてす。
他の娘役さんも、ゆきちゃんにお世話になった話をされていた記憶があります。
…以上の発言は、明日海語録の抜粋です。
…が、これだけでも、読み取れる事があります。
明日海さんは「巧拙」…つまり「上手・下手」で人を評価しないのだな…と。
あくまでも「努力」「心掛け(姿勢)」を基準にされている…と感じました。
新たな相手役(華優希)に対する厳しさを感じない…との声を耳にしますが、お稽古ではきっと厳しいと思いますよ。
お稽古場を覗いた訳じゃないですよね?
それに、「厳しさ」「叱る事」と「怖さ」「怒る事」は似て非なるものですし。
これは仮定の推論ですが。
明日海さんが華ちゃんに対してソフトに接している(ように見える)とすれば。
そこには、大きく三つの要因が推測できるかと。
まず、1点目。
それは、二人の学年差。
11学年差もあります。
上下関係が厳しい宝塚で、11学年差は相当なもの。
しかも、華ちゃんにとって明日海さんは、配属時から花組トップスター。
遠く見上げる星のような存在でしょう。
接し方によっては、委縮して本来の力を発揮できないかもしれません。
「良い舞台を創り上げる為」にこそ、加減を考慮しているのでしょう。
次いで2点目。
華ちゃんは、彼女なりに精一杯、努力の姿勢を見せているのでしょう。
すでに頑張っている人に、無駄に鞭打つような事をしても逆効果ですものね。
そして、3点目。
明日海さん自身がリーダーとして経験を重ね、成長し、余裕をもって人に接するようになられたのかな…と。
相手の為を思い、厳しく接する事もあるでしょう。
相手の良さや持ち味を伸ばす為に、接し方のバリエーションを増やして来られたのだろうなと。
話が逸れますが、私の上司がまさにリーダーとしての成長物語を辿って来た人で。
途中、大きな挫折も経験し、己や他者に向けていた厳しさが変化しました。
時折、精神的に深い話をすると、相変わらずストイックですが、攻撃性は和らぎ、ものすごく忍耐強くなられたな、と。
「人の本質は変わらない」
「人は変化していくもの」
どちらも、その通り。
人間は変わらないけれど、変わる。
変わるけれど、変わらない。
明日海さんも、私の上司も、超ストイックですが、他者に対する包容力は半端ない。
いくつになっても、どんな立場になっても、学ぶ人は学ぶし、謙虚な人は謙虚です。
明日海さんの事も、上司の事も、人間として尊敬しています。
相手が下級生であろうと、刺激も受けるし、学ぶし、委ねるし。
ひとに任せる・委ねるって、よほど信頼していなければ…度量がなければできません。
明日海さんは今回、相手に反応する受け身の芝居が多いですね。
華優希、柚香光たち、下級生の芝居を受け、見守り、反応し、変化する。
これまた、話が逸れますが。
ある初対面同士の講習で、グループ毎にリーダーを選んだ事がありました。
リーダー選択の条件は一つ。
それは何だと思いますか?
それは率先して行動する人?
活発に意見をのべる人?
冷静に観察している人?
……いいえ、いいえ。
「皆の話をよく聞く人」でした。
本作の明日海さんは、舞台上で端に立ち、皆の演技をつぶさに見つめる存在。
同時に、誰よりもいつまでも熱く、反応が素早いんですけどね。
明日海りおほどストイックで、己に厳しい人はめったにいない。
明日海りおほど、熱く、温かく、優しい人もそうそういない。
遠い客席からではありますが、私はしみじみそう感じています。
▽心からの敬愛を込めて

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