2022年8月20日(土)月組『グレート・ギャツビー』を観ることが叶いました。
『グレート・ギャツビー』駆け足感想つづきです。
★海乃美月(97期・研12)
デイジー・ブキャナン
ギャツビーは初恋の相手
天真爛漫でフリーダムなキャラクター設定のようです。
特に少女時代。
ですが、海乃デイジーは楚々として、常識人の印象。
少女時代も登場時こそはっちゃけ系に見せたものの、初恋にときめく乙女。
ファム・ファタル感はない分、嫌みな感じもなく。
普通に可愛らしい女性像ではあります。
ギャツビーにとっては特別な運命の女性ですが、その実、平凡な女性なんですよ…という「恋は盲目」を表現しているのだろうか?
もしそうなら、役創りに成功していると思います。
★鳳月杏(92期・研17)
トム・ブキャナン
デイジーの夫
経済的成功者
イヤミな男です、トム・ブキャナン。
『ピガール狂騒曲』のウィリーに通じるような。
女性を都合よく利用する男。
そういう嫌な男を、ちゃんと嫌に演じてなお、魅力的。
なんなら、ポロから帰ってきて「俺たちアメリカの貴族だぜ、イエイ」と歌い踊る場面とか、めっちゃ爽やか。
ヴィッキー(結愛かれん)を振る時も、サラッと爽やか。
ちょっと俊藤さん入ってた。※
歌唱力は安定と艶で、ストレスフリー。
フィナーレはちなつさんの歌唱指導からスタート。
作品を重ねる毎に、華やぎを増すちなつさん。
男役群舞は月城さんが捌けてから、センターで爆踊り。
ダイナミック&セクシー。
ちなつさんのスゴイ処は、誰かを引き立てる事はあっても、食ったりしないこと。
そして、己が引っ張る場ではスター性を発揮できること。
己の立場や役割を理解し、自然にスイッチングできる人。
なんなんですか、ちなつさん。
さりげにすごい、ちなつさん。
こんな人、めったにいません。
※俊藤龍之介は『今夜、ロマンス劇場で』に登場する映画スター
★風間柚乃(100期・研9)
ニック・キャラウェイ
ギャツビーの隣人で、デイジーの従兄弟
証券会社勤務
「月給80ドル」の勤め人・ニック。
トムやデイジーから驚かれます。
「それで生活していけるの?」と。
余計なお世話だぜ。
1920年代の80ドルは現在の感覚ではどれ位だろう?
…と真剣かつ大雑把に計算せずにいられず。
小学生の頃、『あしながおじさん』を読み、「毎月のお小遣い35ドルって、どれほどすごいの?」と疑問に思い、計算した事がありました。
『あしながおじさん』は孤児院の評議員メンバーの一人の篤志により、孤児のジュディが大学進学する機会を得て、人生を切り拓く、近代のシンデレラ物語。
学費や寮費とは別に「毎月35ドルのお小遣い」を貰える事にジュディが驚く記述がありました。
奇しくも『グレートギャツビー』と『あしながおじさん』の発表は比較的近い時代、
当時の物価換算など考慮すると、当時の80ドルは現代の感覚では推定40〜50万円位でしょうか?
トムやデイジーは桁が違う生活レベルなんでしょうね。
18歳の少女に毎月推定20万円近いお小遣いを渡すあしながおじさんの金銭感覚も、トム達と近いものを感じます。
「20ドルも費い切れない」と手に余る大金に心躍らせ、様々な書籍を買い漁る1年生のジュディ。
4年生になる頃には「35ドルでは足りない」と言い出す始末。
使い道は、化粧品や絹のストッキング。
人間、変われば変わるものです。
トムやデイジーより、遥かに庶民的に見えるニック。
ですが、ニックは対等な姿勢で、堂々としています。
彼は名門イェール大学卒業で、軍隊経験もあります。
ニックを形成する要素は「エリート」
知識・教養・文化的素養を身につけている彼は、何ら臆する事なく、自然体。
ギャツビーやトムの経済的成功に対しても、素直に驚きこそすれ、妬み嫉みを抱いたり、卑屈になる事はなく。
原作小説によると、ニックは中西部の名家出身で、証券会社も所謂コネ入社。
田舎暮らしに飽きて、都会に出て来ました。
会社員ではあるものの、あくせく働く労働者階級ではありませぬ。
会話のキャッチボールとはいえ、出身大学の話題になった時、悪気なくギャツビーに「あなたは?」と尋ねるニック。
ギャツビーが同じ(以上の)階級に生まれ育ったと信じて疑わない所以ですが、時として残酷かもしれません。
20世紀初頭(日本は明治・大正)経済格差が教育格差を生んでいた時代ですから。
今だってイェール大学は名門校ですが、当時は更に狭き門だった事でしょう。
もちろん、キリスト教精神等で奨学金制度があったりして、貧しくとも向学心のある者に開かれた道もあったかと。
しかし圧倒的多数の同窓生は、ほぼ一定以上の階級の生まれ育ちだった事と想像します。
裕福でスマートなギャツビー。
少なくとも中産階級以上の生まれ育ちだと疑わなかったのでしょうね。
ニックは終始、穏やかで良心的な人物として描かれています。
風間くんは落ち着いて安定感のある人物像を打ち立てました。
上級生と対等な関係を演じて、無理がない。
自然でリアル。
ちょっと控えめで、人が好くて。
生前の縁者にことごとく見捨てられたギャツビーの友人であり続けるニック。
誤解を受けた死後も友人として身内のいない葬儀で親族代わりを務めます。
それはニック自身が、ギャツビーに魅力を感じ、自ら関わりを持ち続けたから。
周囲の色濃い人々に圧倒され、翻弄されているように見えて、決して己を見失う事はありません。
本作で最も流されない人物は、ニックかもしれません。
※大学の話を振ったのはギャツビーからでした。
ごめんなさい。
★ギャツビーの学歴
風間ニックと鳳月トムは大学の同窓生。
月城ギャツビーは己の出身校を尋かれ「英国オックスフォードで学んだ」とニックに話します。
後日、ギャツビーの過去を調査した鳳月トムは「オックスフォード行ったなんて嘘やん」と言い放つ。
ギャツビーは正確には「オックスフォードで学んだ」とは言ったけど、「卒業した」とは言ってなかったと思うので、詐称ではなく誇張?
極貧の出のギャツビーは軍役となり、休戦後の将校特典で5ヶ月オックスフォード大学に通学。
ギャツビーにとって軍隊が、奇しくも『あしながおじさん』となり得た訳ですね。
彼はこのチャンスをがむしゃらに活用した事でしょう。
詐称に近い誇張とはいえ、がむしゃらにチャンスに喰らいつく姿勢。
ギャツビーの正体を知ってなお、ニックが彼を「グレート・ギャツビー」と称したのは、一途で真摯な彼を「すごい。僕にはそこまで出来ない」と素直に賞賛する気持ちゆえかと。
他者を素直に認める心根に、人間としての豊かさを感じます。
『育ちの良さ』と表現する事もありますね。
名家や裕福な家庭育ちというより、愛ある養育者に恵まれたのだろうと想像しています。
★デイジーの存在
デイジーにぞっこんのギャツビー。
現代の視点や感覚では、デイジーにそこまでの魅力を感じないと思います。
デイジーは名家の令嬢。
貧民出身のギャツビーにとって高嶺の花。
住む世界の違うお姫様と出会い、相思相愛に。
彼にとって、それは劇的な奇跡に思えたかと。
一度は潰えた夢物語を、再び現実にしたい。
ギャツビーにとってデイジーは単なる恋愛対象に留まらず、憧れ続けた世界の象徴だったのかもしれません。
∇つづきます♪