Quantcast
Channel: シエスタの庭
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2993

演出家・上田久美子先生に寄せて

$
0
0

2022年3月31日は退職や契約終了した方を見送りました。

あの日、演出家・上田久美子先生も宝塚を去られたんですね。

 

宝塚歌劇団の俊英・上田久美子先生の略歴は以下の通り

 

2004年 京都大学フランス文学科専修卒業

2006年 製薬会社勤務を経て、宝塚歌劇団に演出助手として入団

2013年 月組『月雲の皇子』で演出家デビュー(読売演劇大賞・優秀演出家賞受賞

2015年 雪組『星逢一夜』で大劇場演出デビュー

2022年 3月末付で退団

 

演出・潤色・構成などを手掛けた作品は以下の通り。

( )内は主な出演者

※は共同演出

 

2013年 月組『月雲の皇子』(珠城りょう、咲妃みゆ)

2014年 宙組『翼ある人びと』(朝夏まなと、伶美うらら)

2015年 雪組『星逢一夜』(早霧せいな、咲妃みゆ)

2016年 花組『金色の砂漠』(明日海りお、花乃まりあ)

2017年 月組『MOON SKIP』(宇月颯)

2017年 宙組『神々の土地』(朝夏まなと、伶美うらら)

2018年 月組『BADDY』(珠城りょう、愛希れいか)

2019年 星組『霧深きエルベのほとり』(紅ゆずる、綺咲愛里)

2019年 ※『タカラヅカスペシャル2019~Beautiful harmony~』

2020年 宙組『FLYING SAPA』(真風涼帆、星風まどか)

2021年 雪組『fff~歓喜に歌え!~』(望海風斗、真彩希帆)

2021年 月組『桜嵐記』(珠城りょう、美園さくら)

 

花組 1作

月組 4作

雪組 2作

星組 1作(潤色)

宙組 3作

 

以上のうち、すでに再演されたオリジナル作は、下記2作。

主演・ヒロインは同じ。

どちらも好評を博しての再演でした。

 

2013年 月組『月雲の皇子』

2017年 雪組『星逢一夜』

 

『月雲の皇子』は演出家デビュー作にして、バウ公演が異例の再演。

再演は天王洲銀河劇場(東京)だったので、事実上の東上公演に。

 

独り立ちされてからも、演出助手や新人公演担当も継続。

 

本公演と共に担当した新人公演は、

雪組『星逢一夜』(永久輝せあ、彩みちる)

宙組『神々の土地』(瑠風輝、夢白あや)

 

最後の新公担当作は、2018年 雪組『凱旋門』(縣千、潤花)でした。

※本役は轟悠、真彩希帆

 

この華麗なラインナップ。

多くの宝塚ファンの脳裡に浮かんだり、観てなくても聞き覚えがある作品の数々かと。

 

菊田一夫先生作『霧深きエルベのほとり』以外、すべてオリジナル作品。

時代背景も舞台になる地域もバラバラ。

上田久美子先生の幅広い知識を垣間見るようです。

 

この他にも、母校・京都大学で2018年、特別講義を行いました。

申込にチャレンジするも玉砕。

 

聴講した方から、レジュメ+講義メモのコピーを頂きました。

キイワードを書き留めたメモは、レジュメと併せて読むと、エッセンスが溢れてくるよう。

本当にありがとうございました。

 

京都大学未来フォーラム第72回『パンとサーカスの危ない時代に』

 

そこには沢山の言葉と思想が詰め込まれていました。

 

同時に、それらは宝塚時代の作品と繋がっていました。

また、歌劇などで綴られる生徒へのはなむけにも。

 

あくまでも私が抱いた感想ですが。

 

上田久美子は「混沌」を愛しているのかな、と。

 

無菌室のような世界は、本当に住みやすいのか?

正義だけの世界は、本当にユートピアなのか?

 

そんな疑問を投げかけて……いや。

疑問ではありませんね。

上田先生にとって、それは確信だったはず。

 

正義(という錦の御旗)を振りかざし、己は正しいと信じること。

 

それは時として人を鼓舞します。

…が、迷いの無さが攻撃性を高める事もあります。

 

「清濁併せ呑む」という言葉があります。

 

清らかな水も、濁った水も。

正しくても、間違えても。

美しくても、醜くても。

 

その存在を認める。

そういう要素もある、と受け容れる。

 

一見すると醜くても、異なる側面は輝いている。

そんな事だってあるんじゃないか。

 

そんなジレンマを訴えた作品が『BADDY』であり、『霧深きエルベのほとり』であったと思います。

 

『神々の土地』で退団した伶美うらら(95期)は、抜きんでた美貌と芝居心を備えた娘役でした。

スポンサー(池田泉州銀行)もつき、トップ娘役に限りなく近い存在だった時期もありました。

 

ところが、舞台技術…特に歌唱力…が重視される風潮が強まりました。

伶美さんにとって、歌唱力はアキレス腱。

 

トップ娘役が空席だった『神々の土地』で、上田久美子先生は伶美さんをヒロイン格の役に配しました。

歌唱は一切なし。

 

伶美さんは抑制が利いた大人の女性・イリナを凛々しく美しく演じ切りました。

 

歌劇誌に掲載された、伶美さんへのはなむけの言葉も、彼女の長所や得意分野について触れていました。

 

苦手分野や弱点の克服より、強みを生かすこと。

魅力や長所に目を向け、それを伸ばすこと。

 

そうやって、人を活かすこと。

 

(人に対して)寛容であれかし。

 

それを上田先生は訴え続けてこられたように思います。


 

2018年1月1日、星組『霧深きエルベのほとり』宝塚大劇場初日。

 

大劇場改札内ロビーには、理事長や劇場支配人と共に上田久美子先生の姿がありました。

深紅のワンピースをまとった、涼やかでほっそりした姿。

 

「上田先生」

 

そう声をかけると、上田先生は歩を進め、近づいて下さいました。

 

ごく短い時間でしたが、私が伝えた気持ちと感想に耳を傾けて下さいました。

食い入るように、真剣に目を合わせながら。

 

このとき話したことは、おおむね前述の内容を簡略化した感じだったかと。

ただ、あまり上手くまとまっておらず、伝えたい事が伝わったかは不明。

 

そして、上田先生の真っ直ぐな瞳。

 

どうしよう、どうして私なんかの話を、そんなに真摯に聴いて下さるの?

…と想像の上を行く上田先生の対応に、真冬なのに内心汗だくでした。

 

上田先生、本当にありがとうございました。

今となっては、勇気を出して話しかけて良かったです。

 

「贔屓は推せるうちに推せ」は、演出家にも当てはまりますね。

 

 

2023年の演出助手募集要項(リクナビ掲載)を見ました。

2021年度実績として「管理職演出家13名のうち、女性3名」とありました。

これはおそらく、

 

植田景子

小柳奈穂子

上田久美子

 

…ですよね。

劇団は上田先生の功績を高く評価していた事が窺えます。

組織での評価は、肩書と報酬に反映される事が多い。

 

同時に組織は大きくなるほど、柔軟な対応は難しくなりがち。

もっと裁量権を与えるなど、出来るものならしたかった関係者もいた筈。

それで上田久美子という逸材を引き留められるならば。

 

そう簡単にいかないのが、巨大化した組織の短所であり、長所でもあります。

 

小回りが利かない、融通が利かない…という事は、ワンマンや独裁ではない証左でもあるので。

 

ここぞ!という時は、ミラクルな判断や裁量もあって良いのでは…なんて思ってしまいます。

 

 

在野の人となった上田久美子先生が、これからどんな世界を構築するのか。

そしていつか、宝塚と関わって下さるのか。

 

どちらも楽しみにお待ちしています。

 

とりあえず、上田久美子作品に出演を希望する宝塚OGは多かろう。

多いどころか、殺到しそうな予感。

 

欧州留学も予定されているとの事ですが、忙しい宝塚では出来なかった事ができますように。

 

宝塚の演出家や助手は、とんでもなく多忙でしょう。

忙殺という言葉をリアルに体現していそう。

 

どうぞひと息、ふた息ついて下さい。

人生の中休み…お昼休み…?

人生のシエスタを堪能して下さい。

 

※シエスタはスペイン語で「長い昼休み」の意。

 転じて「お昼寝」を指すそうです。

 

∇大好きです

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2993

Trending Articles