新人公演と若手育成をテーマに語るシリーズ。
次いで、月組。
上演年は、宝塚大劇場ベース。
学年は、大劇場公演の初日時点が基準です。
整理も兼ねて、色分けしてみました。
青=のちに月組トップ男役就任(確定を含む)
赤=のちに月組トップ娘役就任(退団済を含む)
緑=他組へ輸出されたトップ路線男役
紫=他組へ輸出されてトップ娘役就任(退団済を含む)
橙=他組へ異動
茶=退団済(確定を含む/トップ就任せず)
1)霧矢大夢&蒼乃夕妃時代
2010年04-07月『THE SCARLET PIMPERNEL』
珠城りょう(94期・研3)
彩星りおん(90期・研7)
2010年09-11月『ジプシー男爵』
宇月颯(90期・研7)
花陽みら(93期・研4)
2011年03-05月『バラの国の王子』
煌月爽矢(92期・研5)
愛風ゆめ(94期・研3)
2011年07-10月『アルジェの男』
紫門ゆりや(92期・研6)
愛希れいか(95期・研3)
2012年02-04月『エドワード8世』
珠城りょう(94期・研4)
愛希れいか(95期・研3)
2)龍真咲&愛希れいか時代
2012年06-09月『ロミオとジュリエット』
珠城りょう(94期・研5)
咲妃みゆ(96期・研3)
2013年01-03月『ベルサイユのばら-オスカルとアンドレ編-』
煌月爽矢(92期・研7)…オスカル
鳳月杏(92期・研7)…アンドレ
2013年07-10月『ルパン』
珠城りょう(94期・研6)
咲妃みゆ(96期・研4)
2014年03-06月『明日への指針-センチュリー号の航海日誌』
暁千星(98期・研2)
海乃美月(97期・研3)
2014年09-12月『PUCK』
朝美絢(95期・研6)
海乃美月(97期・研4)
2015年04-07月『1789-バスティ-ユの恋人たち-』
朝美絢(95期・研7)
美園さくら(99期・研3)
2015年11-02月『舞音-MANON-』
朝美絢(95期・研7)
叶羽時(96期・研6)
2016年06-09月『NOBUNAGA』
暁千星(98期・研5)
紫乃小雪(98期・研5)
3)珠城りょう&愛希れいか時代
2017年01-03月『グランドホテル』
夢奈瑠音(96期・研7)
海乃美月(97期・研6)
2017年07-10月『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』
連つかさ(97期・研7)
結愛かれん(101期・研3)
2018年02-05月『カンパニー-努力、情熱、そして仲間たち-』
風間柚乃(100期・研4)
美園さくら(99期・研5)
2018年09-11月『エリザベート-愛と死の輪舞-』
暁千星(98期・研7)
美園さくら(99期・研6)
4)珠城りょう&美園さくら時代
2019年03-06月『夢現無双』
風間柚乃(100期・研5)
天紫珠李(101期・研4)
2019年10-12月『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』
英かおと(99期・研7)
白河りり(103期・研3)
2020年09-01月『ピガール狂騒曲』※
礼華はる(101期・研6)
きよら羽龍(104期・研3)
※主演に決まるも新型コロナ禍のため、新公上演は中止
…約10年の流れを振り返ってみました。
(対象は霧矢・龍・珠城トップ時代)
男役は10名。
92期 煌月、紫門、鳳月
93期 -
94期 珠城
95期 朝美
96期 夢奈
97期 蓮
98期 暁
99期 英
100期 風間
101期 礼華
うち、トップスター就任1名、珠城りょう。
娘役は13名
90期 彩星
91期 -
92期 -
93期 花陽
94期 愛風
95期 愛希
96期 咲妃、叶羽
97期 海乃
98期 紫乃
99期 美園
100期 -
101期 結愛、天紫
102期 -
103期 白河
104期 羽龍
うち、自組で生え抜き 2名(愛希、美園)
他組へ輸出組1名(咲妃)
合計3名のトップ娘役を輩出。(2021年2月18日時点)
男役も、娘役も、おおよそ各期から1名ずつ新公主演に抜擢する傾向がみてとれます。
ちょっと偏っている期もありますが。
まず、娘役について考察しましょう。
この10年の月組を振り返っての傾向・その1。
「男役から娘役への転向組ヒロイン」が散見します。
90期 彩星りおん
95期 愛希れいか
101期 天紫珠李
この他に、102期 蘭世惠斗も控えています。
他組にも、娘役へ転向した男役はいます。
ですが、性転換した途端、ヒロイン路線にスルッと乗せ、どんどん上げるケースは稀でしょう。
最初から娘役として研鑽してきた生徒のモチベーションが低下しかねません。
愛希は音楽学校時代、娘役志望から男役志望へ転向した経緯があります。
そういう意味では、「娘役に戻った」とも言えるかもしれません。
この10年を振り返っての月組ヒロインの傾向・その2。
実力派の抜擢が目立つこと。
これは…宝塚では、ものすごく貴重な傾向です。
私が知っている範囲でも、舞台技術に長けているヒロインがずらり。
93期 花陽みら
95期 愛希れいか
96期 咲妃みゆ
97期 海乃美月
99期 美園さくら
103期 白河りり
104期 きよら羽龍
娘役としては異例ともいえる人気を博した、愛希れいか
突出した演技力を誇る、咲妃みゆ
全方位に強いオールラウンダー・海乃美月、美園さくら。
きよら羽龍もオールラウンダー型かな?
104期文化祭では、ヒップホップダンスがかっこよくて印象的でした。
101期の結愛かれん、天紫珠李は、特にこれが強い!…という印象がありません。
二人とも歌唱が弱めですが、芝居は達者ですね。
さすが「芝居の月川理事長が「最も力を入れるよう」梃入れを図ったのが「歌唱力」
天使の声と高らかな歌唱力を備えた、白河りり。
私個人の感想ですが、白河りりは真彩希帆去りし後の宝塚を支える歌声だと思います。
白河がヒロインを務めた『I AM FROM AUSTRIA』新人公演。
あと1回だけ、スカイステージで放映予定。
2月20日(土)
13:30~ステージトーク
14:00~新人公演
薮下哲司先生が「今すぐ本公演で役替わりできるレベル」と絶賛した歌声。
ぜひご堪能ください。
『I AM FROM AUSTRIA』新公は、全体的に新人公演と思えない、クオリティの高さ。
英かおと君の爽やかな好青年っぷり。
(珠城りょう様と一緒やん♡)
礼華はる君の俳優になれそうな男前マネージャーっぷり。
(月城かなと様と一緒やん♡)
風間柚乃くんのクセになりそうな芸達者っぷり。
(光月るう組長と一緒やん♡)
そして、白河りりちゃんの歌上手なプリマドンナっぷり。
(美園さくらちゃんと一緒やん♡)
新公ヒロイン経験者以外も、ハイレベルな実力派娘役の宝庫・月組。
娘役の層の厚さはピカイチ。
そんな月組・娘役事情を、この10年ほど振り返っての傾向・その3。
ヒロイン経験を一点集中しすぎる傾向がある。
新公ヒロインは意外と色々な娘役を抜擢していました。
(それでも、海乃さんは複数回、経験させてましたが)
(美園さくらは、トップ娘役が内定して急遽ヒロイン経験を増やした感)
ところが別箱ヒロインとなると、海乃美月の一人勝ち。
せっかくハイレベルな実力派娘役が多数いても、機会を与えず、育てず。
コロナ禍で、若手育成が停滞した途端、露呈した弱点です。
長期にわたる娘2ポジションと別箱ヒロイン独占の煽りで、「綺麗だし、上手だけど、定番化ゆえに新鮮味が…」との印象が定着。
もちろん海ちゃんの責任ではなく、良かれと考えた大人の采配が裏目に出た結果かと。
人気商売の難しいところですね。
さて、男役に移りましょう。
こちらも一人に集中するイメージがありましたが、新公主演は意外とバラけていました。
おおよそ各期1名ずつ、綺麗に並んでいます。
とはいえ、その中でも集中的に主演を振られている生徒はくっきり。
珠城りょう(94期)
朝美絢(95期)
暁千星(98期)
風間柚乃(100期)
このうち、朝美は研9になってまもまく、雪組へ組替。
月城かなと(95期)は一足早く、研8の終わり(2017.02.20付)に月組へ異動。
95期同士のトレード人事でした。
この入替は結果的に成功したと思います。
月城、朝美とも、組替を経て、覚悟を決めた感がすごかった。
特に朝美は、組替直後にもたらされたチャンスをことごとくモノにしました。
バウホール単独主演、本公演でも目立つ役を振られる等。
そういった機会を活かし、舞台技術も磨き、どんどん人気を高めていきました。
良い意味でのがっつき具合が半端なかった。
あーさの本気と覚悟が、男役としての魅力に拍車をかけた相乗効果。
アイドル系の一般受けする顔立ちでありながら、中身は骨太男役。
ギャップ萌えがたまらん。
「今一番」か「今年一番」だったか、「注目している生徒」をトップに尋ねた時のことです。
他組トップは、己の組から選ぶ中で、明日海りおだけが「朝美絢」と回答。
純粋に『あーさの頑張り』を応援する気持ちからの回答でしょう。
同時に、元・月組で、男役としてはやや小柄でアイドル系、組替経験など、共通点も多い明日海さんと朝美さん。
アスミとアサミ…?
なんだか「ぐりとぐら」みたい…(いや、違うから)
対して、月組へやって来た月城さん。
本公演で3番手、別箱で2番手経験や主演経験を積み、着実に地歩を固めていきました。
突出した要素といえば、美しすぎるお顔ですが、手堅い演技力を積み上げてきました。
また、『ピガール狂騒曲』のロングトーンにはびっくり。
肺活量、どんだけ…!
地道な努力の積み重ねを感じました。
順調に見える生徒さんも、陰で相当の努力を重ねているのでしょうね。
話を新人公演に戻すと、今現在のモンスター(褒めてます)は風間柚乃ですね。
『エリザベート』では美弥るりか(フランツ・ヨーゼフ役)が途中休演。
それに伴い、月城かなと(ルキーニ役)が、フランツ・ヨーゼフを。
風間柚乃(皇太子ルドルフ役)が、ルキーニを玉突き代演。
風間は新人公演でルキーニ役に抜擢。
新公では、望海風斗に通じるイッちゃってる感さえあるルキーニを堂々と演じていました。
それがまさか、本公演でも。
数日の事でしたが、この玉突き代演は、風間柚乃の評価を確実に高めたはず。
『夢現無双』では、月城かなと(本位田又八役)が途中から休演。
風間が代わって、本位田又八役を務めました。
新公では主演(新免武蔵役)だったので、己の本役(辻風黄平)も含め、風間は3役をこなした事に。
ただ、ここで「他の生徒より優秀」と判断するのは早計だと思います。
風間とWキャストで皇太子ルドルフ役を演じていた暁千星は、風間より2期上級生。
『エリザベート』新公では、主演(トート)を務めました。
スターシステムを採用している宝塚では、「スターの格」と「役の重み」は重視されます。
皇太子ルドルフは期待の若手が演じる役。
トートとの絡みもあり、出演時間は短いものの、人気が高い役です。
対して、ルキーニは、将来が嘱望されるスターが抜擢される役。
出世役とも呼ばれています。
本来なら、暁を飛び越えて、風間に振られる役ではないでしょう。
…ですが、『エリザベート』は二幕物の大作。
新公は、本公演のダイジェスト版とはいえ、ルキーニ役を体得した風間の方が、対応しやすく、完成度も高いでしょう。
チケット代に見合う舞台を届ける「プロの仕事」という観点から選ばれた代役です。
そもそも、宝塚では各キャストの代役が決まっているそうですし。
急な玉突き人事ですが、もともと決まっていた事なのでしょう。
小池修一郎先生は、代役バージョンの舞台稽古もされる、念の入れようだとか。
『夢現無双』も、同様だったことでしょう。
風間柚乃は、急な代役に対応し、期待以上の出来ばえを見せてくれました。
それは事実です。
だからといって、単純に他の生徒との比較はできない、というお話でした。
月組は、新人公演のレベルが高い。
本公演と比べても、遜色ない出来ばえ。
生徒一人一人も切磋琢磨し、舞台技術が軒並み高めの印象。
月組生は代々、地道な努力家が多いような。
イメージですけども。
手堅いイメージと同時に、外部に対するフロントランナー的な側面もあります。
あくまでも私個人のリサーチですが、「初観劇」や「初めての沼」が月組だった人、結構多い気がします。
私もそうなんですが。
月組は、花組と同時期に誕生した「最も伝統ある組」の双璧でありながら、「宝塚らしからぬ」魅力を湛えた組でもあります。
「宝塚=ベルばら」イメージが定着した中で、「えっ、これが宝塚なの?!」と目を瞠る演目を仕掛けてきたり。
宝塚ファン以外でも名前と顔を知っているスターを生んだり。
(大地真央、黒木瞳、天海祐希)
「月組」とかけて、
「京都」と解く。
そのこころは、「古い伝統をもちながら、実はとってもアヴァンギャルド!」
京都は、和食のイメージがつきもの。
日本で、兵庫(神戸)に次いでパン屋が多いのは京都なんですと。
進取の気鋭に富む月組は、実験的なことを試す傾向もあるのかもしれません。