花組『ハンナのお花屋さん』には、様々なキイワードが登場します。
その一つが『人魚姫』
デンマークの児童文学作家・アンデルセンが創作した物語。
作中、ミア(仙名彩世)が使うハンドルネームが『リトルマーメイド』
それに対して、クリス(明日海りお)は『アンデルセン』と名乗ります。
アンデルセンの名前は、ハンス・クリスチャン。
おぉ、クリス?!
アンデルセンは生涯、失恋を繰り返していたそう。
失恋の原因は「容姿が醜かったから」説がメジャー。
明日海クリスはイケメンですが、フラレ続きだったんですよね。
失恋の原因は「同性愛者だったから」と唱える向きもあります。
同性愛者説は、マイナーな仮説ですが。
同性愛は宗教的禁忌も絡み、ハードルは高かった事でしょう。
好きとさえ口に出来なかったかもしれません。
まさしく人魚姫。
人魚姫のモデルは、アンデルセン自身とも言われていますね。
ミア以外にも、『ハンナのお花屋さん』には人魚姫キャラが潜んでいます。
その一人が、アナベル(音くり寿)
紫陽花の一種・アナベル。
紫陽花の花言葉は「移り気」なのに、アナベルは「一途な愛」なんですね。
クリスに仄かな憧れを抱いている事を、そこかしこで匂わせるアナベル。
クリスが英国を離れ、デンマークで新規事業を始めると知り、張り切る店員たち。
その中で一人、複雑そうなアナベル。
クリスがいなくなる花屋で、自分はやっていけるのか。
自信を持てないでいるアナベル。
怪我でバレエの道を諦めたアナベルは、花屋で楽しそうに働くクリスを見かけ、フローリストの道へ踏み出しました。
アナベルにとって、クリスの存在は恋愛対象に留まらないのでしょう。
暗闇で見つけた光が、クリスだったんですね。
ストレートに態度や言葉に出しこそしませんが、クリスへの一途な気持ちはミア以上かもしれないアナベル。
クリスに、紫陽花のアナベルを手渡した事が、精一杯の告白でした。
気づいてやれよ、クリス〜〜〜(もらい泣き)
そして、アベル(芹香斗亜)も人魚姫キャラといえましょう。
ヨハンソン家の実子ではないアベル。
子どもになかなか恵まれなかった両親が、救貧院から引き取った養子でした。
弟・エーリクは、アベルか13歳の時に生まれた、両親の実子。
アベルは生まれつき気品があり、ヨハンソン家の嫡子だと、誰もが疑わなかったアベル。
裏返せば、ヨハンソン家の誰もが、秘密を漏らさなかったという事でしょう。
アベルもまた、ヨハンソン家の人間であろうとし、育ててくれた両親に報いようと必死でした。
最愛の妻子(ハンナとクリス)にも終生 告げなかったアベル。
秘密を守り続けた両親を尊重し、その姿勢を踏襲したのではないか、と。
両親に深く感謝するアベルは、己の人生より、「育ててくれた恩に報いること」を重視。
彼が実子なら、育ててもらった事に、それほどまでに感謝したか、わかりませんね。
遠慮なく、自分のために…Selfishに生きられたかもしれない。
言葉を発せない…というより、言葉を呑み込んだ人魚姫が、アベルなのでしょう。
そして、クリス。
クリスもまた、人魚姫と言えましょうか。
父・アベルへのわだかまりを抱えてきた、孤独な魂。
アベルが呑み込んだ言葉が、息子のクリスに影を落としてしまったんですね。
『己の心の声に耳を傾けて』
無理しない。
我慢しない。
意地を張らない。
『苦しくなったら、森に行きましょう』とハンナはいざないます。
フィトンチッドが満ち溢れる森で、心がフラットに、ニュートラルに還っていく。
素直に。
我がままに。
あるがままに。
『人魚姫』が発表されて 280年の時を経た今、人魚姫たちが救われる物語が生まれたんですね。