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愛すべき明日海ビル(ME and MY GIRL)

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花組『ME and MY GIRL』のキャスト別の感想です。
ネタバレありなので、知りたくない方はご注意下さい。


★ウィリアム・スナイブン(ビル/明日海りお)

明日海ビルは、一言でいえば「so cute!」

一幕目のビルは茶目っ気たっぷりの下町っ子。
猫背で、ガニ股で、礼儀知らず。

ですが、誰に対してもニコニコ愛敬たっぷり。
初対面の人々に囲まれても、物怖じしません。

「初めまして」と(キスするよう) 手の甲を差し出したジャッキーの指をつまんで、握手ならぬ握指をしたり。

「会えてうれしいぜ~!」とジェラルドを肘で小突いたり。

「どうやって暮らしてたか」と尋かれ、「喧嘩したり、果物を売ったり」とそれぞれジェスチャーして見せたり。

「頭を使ったり、手先を使って目を騙したり」と手先の器用さを生かし、ジョン卿の金時計をくすねて見せたり。

屋敷に住み、紳士教育を受けても、人と隔たりなく接するビル。
例えば、台所(召使達の作業ゾーン)にも気軽に出入りします。

「ここに来られたご家族の方は、貴方様が初めてでございます」

執事長ヘザーセット(天真みちる)に言われたビルは

「お屋敷の家族たちは俺を見下している。 お前達は尊敬して俺を見上げる。 その間に挟まれたサンドイッチのハムみたいだ」

と述懐しますが……使用人達は、規格外のご主人様に驚き、戸惑っているのでは?
尊敬とは方向性が違うと思う…よ?

時は1930年代、階級社会の英国では、伯爵といえば上流社会の中でもトップクラス。
召使い(労働者階級)に親しげに話しかけるなんて、まずあり得なかったのでしょうね。

ですが、人との間に垣根を設けないビル。
ビルはどんどん貴族らしい佇まいを身につけていきます。
ですが、ビルの本質はきっと変わらないでしょうね。

明日海りおは、下町っ子がだんだん洗練されていく様を演じ分けていました。
粗野だけれど下品にならず、チャーミングなラインを守っていました。

ジャッキーに迫られる場面では「ハンサム」と言われて喜んだり。
肉弾戦で押しまくられ、逃げ腰になったり。
色香にクラッとよろめいたり。
「いや、ダメダメ」と理性を立て直したり。

ちゃらんぽらんに見えて、実は真面目で誠実で責任感の強い青年だと伝わってきます。
ただ、サリーとジャッキーのキャット・ファイトには真剣に怯えてましたが…。

ダービー帽やリンゴを使っての軽妙な手技も、見どころの一つ。
初演の剣幸さんはいとも簡単にやってのけてましたが、改めてナマ観劇で観ると、すっごく高度な技ですね。

特にリンゴは、ピアノ線が仕込まれてるの?…と思うくらい。
失敗した事で「ピアノ線じゃなかった……みりおさんが仕掛けなしでなさってた…」と証明され、改めてスゴイ!と思いました。

それだけに集中した状態でも難しいでしょうに、歌いながらの手技はどれほど難しい事でしょう。
明日海さんはもちろんのこと、改めて…代々のビル…凄すぎる…!

マリア叔母様の熱血指導に、頭が沸騰したビル。
ソファめがけて駆け込み、前転して帽子をかぶる技では、成功するたび俺様系ドヤ顔。
色んな意味でオットコ前な顔を見せてくれます。

男前ビルの集大成がラストシーン。

いくら探しても見つからないサリー。
ビルは屋敷を出てランベスに戻る決心を固めます。
そこへ現れたのが、すっかり淑女に変身したサリー。
扇で顔を隠したサリーに

「あなたにとって大切なその方と再び会えたら、何と仰いますか?」

と問われ、真剣に考え込むビル。
ところが顔を上げると、そこには探しても探しても見つからなかったサリーが。
思わずトランクを投げ出すビル。

「てめぇ、今までどこへ行ってやがった!」

こんなに愛情あふれる罵倒はありませんね。

ラストに行き着くまで、名曲と名場面がずらずら並ぶミーマイ。
その一つが、人気の消えた食堂にサリーと共に入り込み、二人でメインテーマを歌い踊る場。
タップダンスが含まれた、軽快なダンスシーン。

凰稀かなめさんはこのシーンを、退団後のソロコンサートで白華れみさんを迎えて再現されてました。

ビルとサリーが楽しげに歌い踊る場面なのに、一抹の切なさが漂う気がするのは何故でしょうか。
あまりにも多くの演じ手と観客に愛された作品なだけに、様々な想いが積み重なっているから…かもしれません。

そしてミーマイといえば、ランベス・ウォーク!
本当に楽しいですよね。

客席降りもあって、舞台と客席が一緒に盛り上がれるナンバー。
1階席の方が盛り上がり度は高いのですが、2階席にも下級生達が来てくれます。

舞台上では最初、戸惑う貴族の皆さんも巻き込んで、ランベスチームが大騒ぎ。
次第に、貴族たちもノリノリに。
弁護士パーチェスター(鳳真由)は早い段階で踊り始め、お屋敷の弁護士バージョン・ダンスを見せてくれますよ。

厳格なマリア叔母様もビルのダービー帽をかぶり、ビルが叔母様のティアラを付け、二人で踊りながら食堂へ移動していきます。
サリーではなく、あの叔母様と…というセレクトが良いですね。

単なるバカ騒ぎではなく、ビルとサリーそれぞれの相手を想い合う気持ちがベースになったお祭り騒ぎ・ランベスウォーク。
ビルという青年の見た目と本質の落差を投影したシーンでもありました。

常にベースに愛がある、愛すべき青年ビル。
血肉が通った温かい青年が、確かにそこにいました。

ハット・トリックを始めとした手技に関しては、まだまだ失敗する事もありますが、失敗した時でさえビルらしいというか。

街灯にコートをうまく引っ掛けられなかったり、取り外せなかったりもしますが、あれはあれで美味しいのよね…。

王冠と裾の長いローブをまとって、転倒したり(…は演技)
ローブを顔から被って巻きつけ、動けなくなったり( これも演技ですが、回によっては本気でサリーに助けを求めてます)

明日海りおの場合、そつなくこなすより、スムーズにいかない方が美味しい気がするのは何故でしょうね?
上手くいかない時の回収の仕方に、個性や魅力が見えるからかな。

愛すべき…愛す可き…可愛い青年ビル。
明日海りおは、その可愛らしさを余す事なく演じています。

舞台上の失敗さえ、「ビルらしさ」に変換してしまうなんて…… 明日海りお…おそろしい子…!
(『ガラスの仮面』より、姫川亜弓様の立ち位置でお読み下さい)

次回『Kiss Kiss りおちゃん』に続きます。(…なんだそりゃ?)



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